赴任一週目。「最初からとばすとろくなことがないから、始めはのんびりしてた方がいいよ」と日本の事務局長の安達さんに電話で言われて「それもそうだ」と思ったのもつかの間、「とばす」つもりはなくても次から次へと新しい用事やらこれまでのたまった仕事(8ヶ月間プロジェクト・マネジャーが不在だったため)やらが押し寄せてきました。背中を押されて気をつけないと前のめりに転びそうな感じです。

 今日はもめごとを起こして12月に契約を打ち切った元スタッフが労働局に苦情(不当な解雇だとか、退職金を増やせとか)を言っているとのことで、二回目の交渉。担当していた現地スタッフのリーダーのシタが約束していた午前中に行ったら「プロジェクト・マネジャーじゃないとダメだと言われた」と不満たっぷりの顔で戻ってきた。では午後二人で行こうということになっていたのに、元スタッフから乱暴な言葉を言われて彼をこわがっているシタは顔を合わせるのがいやで自分は行きたくないと言い出す始末。しまいには頭痛がするといって事務所から早退。「あれはPTSD(Post-Traumatic Stress Disorder)だね」とスタッフのアンと冗談を言い合っていたら、午後になったところで「まだ頭痛がする。労働局にはアンと行ってくれ」と携帯にメールが。おいおい! (真剣にPTSDなのかしら。)

 午後用事があったアンの代わりにクンティアのバイクで労働局に到着。しかしクンティアも元スタッフが玄関近くに座ってるのをみるや、私を道路の反対側に下ろしてさっさと退散。クメール語は「こんにちは」と「ありがとう」しか言えないのにどう役所と対応するんだ??と思いながらまあどうにでもなれ、という感じで建物に入る。どうせ田舎の役人なんてろくでもない人だろう、外国人だからって賄賂でも要求されるんだろうか、でもお財布忘れてきちゃったけど、などと考えながらシャンデリアがまぶしいエアコンの効いた部屋に通される。結局「通訳が必要」とのことでアンが事務所から呼び出されて長い長い交渉が始まった。

 元スタッフの長々とした苦情申し立てのあとに、その要求をのむのかのまないのか私に質問がふられる。到着してから3時間近く経過して「なんでもいいから早く帰りたい!」と思い始めたころようやく気づいた。この交渉役の役人さん、どちらの言い分にも距離を置き、客観的で完全に中立的に交渉を進めている。そういえば始めるときに「このミーティングはどちらが正しい、正しくないと決めるものではありません」と言っていたっけ。元スタッフの肩を持つのかな、こちらの肩を持つのかな、と彼の出方を観察していたけど結局最後までどちらの肩も持たなかった。これってけっこうすごいと思う。さすがプロだ。「どうせ役人なんて」と勝手に思った自分の偏見を反省しながら勤務修了時間も過ぎたころに事務所に戻った。

 次回また交渉が決裂すれば今度は裁判になるかもしれない。それはそれでカンボジアの司法のレベルが見れておもしろいかも。「裁判になっても構わないよね。私たちがどうせ勝つんだし」とアンとも明るく話して私の初役場体験は終わった。